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【Golden Circleリリース記念INTERVIEW後編】Vo.原田夏樹によるGolden Circle全曲解説

evening cinemaのボーカル&ソングライター・原田夏樹が、ニューアルバム『Golden Circle』を語るオフィシャルインタビュー。アルバムの全体像について語った前編はこちら(https://www.evening-cinema.com/post/interview-goldencircle1 )。

後編では、原田が『Golden Circle』を全曲解説します。







「Good Luck」




――まず1曲目「Good Luck」。アルバム全体に言えることだと思いますが、コーラスワークがめちゃくちゃ面白いですよね。


原田:そうですね。「Good Luck」が一番多いかなと思うんですけど、執拗にコーラスを重ねました。もともとThe Beach Boysとかを聴いてて、コーラスのキャラクター性をもっと前面に出していって、それが自分の作る曲のひとつの強みや特色になればいいなと思って意識的に入れようとしたのがきっかけです。あと、ジェイコブ・コリアーの影響がデカいと思います。コーラスだけで何百トラックとか重ねたりする方で、「これだけコーラスを積んでもいいんだ、それを今やってる人がいるんだ」というのがすごく面白いなと思って、自分もやってみたいというふうになりましたね。


――なるほど。ジェイコブ・コリアーの名前が原田さんから出てくるのは意外でした。他にバンドとしてこだわったところは?


原田:パーカッションですかね。ドラムの石澤(衛)にやってもらって、やっぱり打ち込みより絶対いいなと。どこの国が舞台なのかわからない曲にしたかったというのがありますね。


――二胡も入ってるし。そういうものを作りたいと思ったのはどうしてだったと思いますか?


原田:とにかく外に出たかったんでしょうね。曲の中であちこちに行ってみたいという気持ちが反映されたんじゃないかと思ってます。



「Rainy Talk」





――これは80年代ニューウェイヴやディスコの質感からインスパイアされて作ったそうですが、それを作ってみようと思ったのはなぜ?


原田:「おうちディスコ」っていう(笑)。最初はディスコソングを作りたいと思ってたんですけど、イントロが最初にできて、ちょっと影があるというか、明るさや派手さと隣り合わせに陰りがあるようなイメージが自分の中であって。赤とかオレンジというより、青いイメージがあるなということを考えたら、「みんなで集まって踊ろう」というより、家で一人で盛り上がる、酔いしれるためのディスコソングを作りたいと思ったんですね。


――やっぱり今作は、家にいて閉塞感がある、どこも行けない、というところから溢れ出たものを含んだ曲が多いんですね。


原田:そうですね。無意識のうちにそういうのが滲み出たかなと思いますね。あと、ひとつモチーフになったのは、バブリーな感じを出したいと思って、デュラン・デュランとかを聴いたりして。音は、葛西さんに「デュア・リパ」ってリクエストしました。


――へえ!?


原田:ニューウェイヴ感を出したいんだけど、バツンってくるキックとスネアのデュア・リパ感がほしいです、みたいな(笑)。


――なるほど。あと、これはMVもジャケットと同じ、シンガポール在住のインドネシア人イラストレーター・Ardhira Putraさんに作ってもらっていて。めちゃくちゃ完成度が高いですよね?


原田:はい! 本当に。第一稿がきたときに「これがほしかった!」って思いました。「やっぱりこの方に頼んでよかった」と思いましたね。


――MVに関しては、何かこちらから注文とかしたんですか?


原田:「雨」「夜」とかシチュエーションのリスクエストはして、具体的にどういう場面を書いてくれとかは言わずにお任せしました。出てくるワードはこっちで指定したものも入ってます。「スイート」とかはPutraさんが考えてくださったんですけど、「夢で逢いましょう」「雨傘」とかは僕が入れたいですってリストにして送りました。曲を作る段階で、直感で相性よさそうだし絶対に合うなと思って、MVを作るならこの曲だと思ってたんですよね。むしろ合うものを作ろう、Putraさんの映像作品の一要素として曲を作ろう、というくらいのテンションだったかもしれないです。


――あと、この曲でひとつ聞きたかったのは、<「汚れなくては生きて行けない」>というフレーズで。この言葉は「耽溺と憂鬱」にもありますが、どういうところから出てきた一節でしょうか。


原田:これは、吉行淳之介がエッセイ集の中で、要約するとそういうことを言っていて。『なんのせいか』というタイトルのエッセイだったと思うんですけど。次作はそれをテーマにしたいと思っていて、「Rainy Talk」はMVも作ってもらおうと思ってたので、ここぞと思って入れました。


――その思想に惹かれたのは、なんでだと思いますか。


原田:多分、彼の人生観や死生観が僕のそれとほぼ一緒だったということですかね。前もこういう話をしたと思うんですけど(https://www.evening-cinema.com/post/202009-interview-3 )、「自分は手を汚してませんよ」みたいな面して生きてる人ほど欺瞞に満ちた人はいないという考え方があって。吉行淳之介は、悪とか汚れも引き受けることで人間の深みが増すという考えの人で、「ああ、この言葉がほしかったのかもしれない」と僕は読んだときに思って。大切なところでは、彼の作品やエッセイを思い出して曲を作るようにしていますね。



「Night Magic」





――「Night Magic」は、中国・深センで開催された世界最大級の芸術祭『Shenzhen Fringe Festival 2020』のテーマソングとして描き下ろしたんですよね。どんなことを考えて書いたのでしょう。


原田:みんな思うように集まったり飲んだり盛り上がったりできない時期が長く続いていた中でやっと開催できた芸術祭なので、みんなで踊れる・歌える曲がいい、というオーダーがあったんですよね。ただ、日本語でもいいとも言われて、それは結構びっくりしました。なので「Night Magic」はどちらかというと、みんなで踊れるアゲアゲなディスコソングのイメージで作りました。最後の合唱パートは、あとからつけたものなんです。


――みんなで歌える、踊れる感を出すために?


原田:はい。最初、合唱がついてない段階で提出したんですけど、「最後とかでいいから合唱してるようなものを入れてほしい」って言われて。この曲、実は他のメンバーもコーラスをやってる唯一の曲です。


――<純愛の不可能性>というのは、キラーフレーズですよね。


原田:そうですね。たびたびこういうことは出てきちゃいますね、どうしてもね。



「After All」





―「After All」は、evening cinemaとしては結構新しい感じのサウンドですよね。どういうところからこの曲を作ろうと思ったんですか?


原田:クラシックギターとアップライトベースを使いたいと思って、そのために作ったと言っても過言ではないです。基本的には、最初僕が好き勝手に曲を作っちゃって、それをみんなに聴かせて料理していってもらうという作り方が多いんですけど、これはギターのisokenとかと「ネオソウルみたいなことやってみないの?」という話になって、「多分サビはイブシネ節になっちゃうけど、そういうのも面白そう」と思って、乗っかってやった感じですね。なのでこれは、ディアンジェロになりたかった曲です(笑)。最初のイントロは、わりとそこからフレージングとかを引っ張ってきてくれたりしたみたいです。


――なるほど、面白い(笑)。


原田:ネオソウルのイメージがあったので、歌録りの段階で最初はちょっとすました感じで録ってたんですよ。サビとかこんなにエモーショナルな感じではなくて。でも、葛西さんも結構悩まれた末に「じゃあevening cinemaがやってる意味って何?」という話になって、結局、ポップスとR&Bの中間みたいな落としどころになりました。


――すました感じの歌い方だとしっくりこなかった、というのはまた面白い話ですね。


原田:そうですね。今回はボーカル録りが曲のキャラクターを左右したところが多かったですね。「もうちょっとハキハキ歌った方がバンドの瑞々しさとマッチするんじゃないか」とか、そのあたりを考えながらやりました。単純に、僕のボーカルの技量が前よりも自由度が高くなったというのはありますけど。


――バンドの演奏の進化と原田さんの歌の進化がしっかり比例してて、それが楽曲の進化につながってると言えそうですね。


原田:歌は、結構こだわったかもしれないですね。単純にキーが高くなったというか、以前は張れなかった音とかが出るようになってて。それなりに続けていれば、多少なりとも歌えるようになるもんだなって思いました(笑)。『CONFESSION』のときとかは、僕のやりたい歌い方に僕の技量が追いついてなくて、葛西さんがいい収まり方になるようにディレクションしてくれたケースが多かったんですけど。今回は、たとえば癖として残しておくようなディレクションとかも入ったりしてて、その辺も面白かったです。



「See Off」





――ここまで夏感が出た曲も、イブシネの中では珍しいですよね。


原田:あんまり今までやったことなかったですね。これもわりと、初めてやってみるタイプの曲をやろうよ、という意識で作っていきました。これは引用のパレードみたいな曲になってますね。


――原田さんのルーツには色濃くあったのに、意外とやってなかったからやってみようと?


原田:やってみようと思いましたね。やりたいとはこれまでも思ってたんでしょうけど、技量もなければどう昇華したらいいのかもわからないというのもあって。この作品から、レジェンド的なミュージシャンと正面から向き合う考え方ができるように、少しはなったかなと思ってます。


――そうやって正面から向き合ってみようと思えたのは、それこそ「summertime」がヒットしたり大滝詠一さんや野宮真貴さんを公式でカバーしたり、evening cinemaや原田夏樹に対する世間からの評価の変化も関係してますか。


原田:あると思いますね。もちろん、バンドとしてまだまだ上を目指したいと思うんですけど、いろんなところから声をかけてもらってるうちに、まったく見向きもされない、時代に逆行したことをやってるわけでもないのかもな、という自信にはなっています。でも、バンドメンバーの存在が一番大きいのかなとは思います。自分の手足が拡張された感じがすごくするので、「この曲はできないだろう」という考え方をすることがなくなったのが嬉しいですね。



「Dream Again」


――これはどういう曲を作りたくて作り始めた曲ですか?


原田:これは「Rainy Talk」と対になるようなイメージで。曲ができたのもレコーディングした時期も「Rainy Talk」よりこっちが先だったので、ある意味では予行演習だし、かと言って全部アプローチが同じかと言われるとそういうわけでもなく。打ち込みっぽいんだけど本当に叩いてます、というイメージで作ってますね。


――サビ前のドラムフィル、全部めっちゃいいですよね。


原田:このドラムフィルは「青山純さんで」って石澤にお願いして(笑)、「ああ頑張るわ」って言いながら叩いてもらいました。あとは、<もう一度夢で逢いたくて>というところがあるんですけど、ちょっと違った構造にしてみたいなと思って、2番でいきなりCメロを入れてみたりしました。わりと技巧的というか、曲作りのアプローチとしてちょっと違うことをやってみたかった曲です。



「耽溺と憂鬱」


――これも新しいことやってみよう、という意識ですか? ピアノ弾き語りから始まるバラードって今までなかったですよね。


原田:確かにそうですね。この曲は後ろの方にレコーディングした曲で。さすがにずっと明るくて派手な曲だとアルバム全体として疲れるかなと思って、ちょっと箸休めじゃないけど、こういうトーンの曲があってもいいなと思って作りました。これだけバンドのアンサンブルを聴かせる曲が多いから、逆にシンプルに聴かせる曲もほしくて。


――この曲、個人的にすごく好きです。


原田:実は一番古いんですよ。確か『CONESSION』を作ったあとにはできていた曲で、ずっと放っておいて今まできちゃっていたんですけど。


――「耽溺と憂鬱」という言葉は、どこからきたんですか?


原田:これも吉行ですね。<汚れることなくしては 生きては行けないのだ>って、これにも出てきますよね。これは詞先だったのは覚えてます。


――今作は、音楽として聴かずに目で読むだけでも「詩」として美しく成立してる歌詞が今まで以上に多いなと感じました。最後の3行とかもすごくいいですよね。


原田:嬉しいです。自分でもこの曲の歌詞は一番納得がいってるというか、詞だけで読めるものになったかなという感じがしています。



「誓い」





――「誓い」に関しては、「ここまで明るい曲は今あまりない」とセルフライナーノーツに書いてましたね。


原田:そうですね。本当に突き抜けてやりたいことやってみたという感じです。べースの山本(和明)とかから「ポップが売りだよ」みたいなことをよく言われてて。僕は、どちらかというと「jetcoaster」みたいなミドルないしはスローなバラードっぽい曲の方が性に合ってると思ってたんですけど、やけにみんなが「ポップだ」って言うので腰据えて作った曲です。


――なるほど。私のイメージとしては、「jetcoaster」みたいにメロウに愛を歌うのも原田さんらしいし、でも「summertime」みたいな軽快なポップのイメージが確かに世間的には強いのかもしれない。


原田:自分の中だと、一番大きな柱は「jetcoaster」みたいな曲で、もう一個オプションとして「明るいのもあります」というくらいの考えだったんですけど。特に山本がやたら「ポップだ」って言うんですよね。あの人がポップ好きというのもあるんですけど(笑)。これはとにかく多幸感の固まりにしたかった曲です。歌に乗せなかったら恥ずかしくて言えないようなことを、歌に乗せるからギリギリ言えた、みたいな感じですね。


――ここまで両思いな感じって、イブシネの曲であまりなくないですか?(笑)


原田:ないですね(笑)。基本的に、僕の恋愛観には障壁があるので。



「君の季節」





――この曲については、セルフライナーノーツに「経験値が上がった」と書いていらっしゃいますが、具体的にどういうところがですか?


原田:僕個人でいうと、ボーカルですかね。まず、このリズムをイブシネでやったことがなかったんですよ。こういう曲をやると「なんちゃらブルース」みたいな歌謡曲っぽくなるだろうなっていうのがなんとなく頭の中にあって。それはそれでいいんだけど、今じゃなくてもいいやと思って作らないでいたんです。でも、いざ作ってみると、一番仕上がりに感動してる曲かもしれないです。歌もこれはほぼ迷わずすっと録れて。すっと正解にいけたというイメージでした。この歌録りのときだけ山本が来てくれて、「見られてる」というのもあってすっと歌えたのかもしれないです(笑)。


――今作は季節感のある楽曲がいくつかありますよね。


原田:四季を全部揃えました。


――それはどういう意図で意識していたんですか?


原田:去年、1年かけて一定のペースでシングルを出していこうと決まった段階で、四季を全部網羅できるなということを思ってましたね。



「燦きながら」





――「燦きながら」、これもイブシネらしく恋愛の障壁を描いた素敵な曲ですね。


原田:これはわりと核になってるというか。4人でスタジオに入ってレコーディングしたのはこの曲が初めてなんですよ。これができた時点で、これは今回のアルバムで核になると、なんとなく思ってました。


――何がそんなにしっくりきたのでしょう?


原田:さっき(インタビュー前編)「渋谷系が呪いのように」って言いましたけど、ある意味、ちょっと折り合いをつけられたかもしれないと思えた曲です。この曲で「やりたいことができるようになってるかもしれない」という考えを固められたというか。この曲ができあがったときに「いろんなことができそう」と思ったのは覚えてますね。


――歌詞についていうと、「燦きながら」でキーとなっている一行は<どこかで必ず僕たちは出逢う>ですよね。この一行があるかないかで全体像や曲の意味が変わってくるから、すごい書き方をされてるなと思いました。


原田:螺旋イメージです。一旦離れるけど、またどこかで出逢う、そういうイメージで作りました。この2番のサビは、めちゃくちゃ渋谷系っぽくないですか?と思って書きました(笑)。



「永遠について」





――最後、「永遠について」。これをCDだけに収録しようと決めたのはなぜですか?


原田:単純に、アルバムの曲としては考えてなくて。でもCDってボーナストラックみたいなものがあるよなと思って、CDだけに入れようと思いました。


――アルバムの曲として考えなかったのは、どういうポイントで?


原田:ドラムが打ち込みだから、というところですね。この曲は、緊急事態宣言中あたりにリモートで録ったもので。変則的なやり方で作った曲なので、このアルバムの方向性とはまた違ったキャラクターがあるなと思って、ボーナスという形にしました。


――全曲振り返りましたが、やっぱり原田さんが書く曲は恋愛模様からくる人間描写が軸にあるんだなと。今、たとえば「コロナ」という全人類に共通する事象や感情の揺さぶりを表現できるテーマがある時代で、その視点で曲を書くソングライターも世界中に多い中、それでも原田さんは恋愛について書くことを貫くのはイブシネのスタンスをはっきりと示すものであるなと思いました。


原田:そうですね。性に合ってるというのが一番の理由ですかね。やったことがないので何とも言えないですけど、僕の場合は、下手に社会や政治とリンクさせようという意識で作っちゃうと、もろそういう曲や歌詞になってしまいそうな気がしていて。そういう不安もあり、あえてやろうとは思わないっていうのもあります。それよりは「くっついて離れて」みたいな人間模様を歌ってる方が自分の性に合ってるのかなと思いますね。



インタビュー・テキスト:矢島由佳子



 

3/9(水)全国発売&配信リリース

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Full Album「Golden Circle」


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